五十三話 闇シナリオ
カリアは身動きをしない俺を見ながら、期限良さそうに笑っていた。その声に反応するのは攻略対象のキャラクター達だ。ここにはいないメリエットとグレイにも、彼の影響は届いている。メモホロの世界があるのは、彼らの存在が肯定されているからだ。 それを聞いた事のない言語で、書き換えていくと、狐のように目を細めた。「これこそ、神の未技やな。ギルバートの奴を出し抜けたようで、良かったわ〜」 いつもプレイヤーのサポートしている運営の事を鬱陶しく思っていたカリアは、シナリオマスターの美緒がこの世界に繋がるのを待っていた。 彼女は自分の体を手放し、ギルバートと名乗る権限持ちの存在へと成り下がったのだ。外の世界から送ってくる信号は、いつでもこの世界を立て直していく。「美緒はん、可哀想やけどしゃーない。オイラは何も悪くないで。堪忍してや」 この会話をギルバートが聞いているかは不明だ。メモホロの世界軸を自分に置くように、全てのシナリオを闇のシナリオへと変えていく。 ずっと考えていた事だった。プレイヤーが楽しめる世界を、メモホロに飲み込まれる意識を認める事が出来ないでいた。 彼は美緒に裏切られた過去を持つ、元人間だ。カリアにも本来は実態のある肉体が存在していた。しかし、カリアの脳をこのゲームの一部として、人工知能の一つとして、システムを管理する自動システムを作り出した。彼はメモホロが形になる何年も前から、この世界に閉じ込められていた。「君がオイラを閉じ込めた。体も自由も奪ってな。だから考えたんや、異質なオイラがこの世界に干渉する方法があるんやないかて」 自分の過去の行いを、消された真実を一人で語り続けるカリアは、自分に酔いつぶれている。 そんな彼の元へラウジャが引き寄せられるかのように、地べたに座る。忠誠を誓うように、彼の手にキスを落とすと、真っ黒な瞳でぎこちなく笑う。 瞳の奥はぐるぐると渦巻いている。カリアは自分の過去の姿とよく似たラウジャに、好意を示すと、自分の膝に項垂れるように、倒して五十三話 闇シナリオ カリアは身動きをしない俺を見ながら、期限良さそうに笑っていた。その声に反応するのは攻略対象のキャラクター達だ。ここにはいないメリエットとグレイにも、彼の影響は届いている。メモホロの世界があるのは、彼らの存在が肯定されているからだ。 それを聞いた事のない言語で、書き換えていくと、狐のように目を細めた。「これこそ、神の未技やな。ギルバートの奴を出し抜けたようで、良かったわ〜」 いつもプレイヤーのサポートしている運営の事を鬱陶しく思っていたカリアは、シナリオマスターの美緒がこの世界に繋がるのを待っていた。 彼女は自分の体を手放し、ギルバートと名乗る権限持ちの存在へと成り下がったのだ。外の世界から送ってくる信号は、いつでもこの世界を立て直していく。「美緒はん、可哀想やけどしゃーない。オイラは何も悪くないで。堪忍してや」 この会話をギルバートが聞いているかは不明だ。メモホロの世界軸を自分に置くように、全てのシナリオを闇のシナリオへと変えていく。 ずっと考えていた事だった。プレイヤーが楽しめる世界を、メモホロに飲み込まれる意識を認める事が出来ないでいた。 彼は美緒に裏切られた過去を持つ、元人間だ。カリアにも本来は実態のある肉体が存在していた。しかし、カリアの脳をこのゲームの一部として、人工知能の一つとして、システムを管理する自動システムを作り出した。彼はメモホロが形になる何年も前から、この世界に閉じ込められていた。「君がオイラを閉じ込めた。体も自由も奪ってな。だから考えたんや、異質なオイラがこの世界に干渉する方法があるんやないかて」 自分の過去の行いを、消された真実を一人で語り続けるカリアは、自分に酔いつぶれている。 そんな彼の元へラウジャが引き寄せられるかのように、地べたに座る。忠誠を誓うように、彼の手にキスを落とすと、真っ黒な瞳でぎこちなく笑う。 瞳の奥はぐるぐると渦巻いている。カリアは自分の過去の姿とよく似たラウジャに、好意を示すと、自分の膝に項垂れるように、倒して
五十二話 烙印 全てを破壊してやる—— どこからか声が聞こえてくる。それは毒のように激しく、甘い誘惑の味。俺の視界が言葉を取り込むと、微かに砂嵐が正体を見せてきた。メモリアルホロウ、略してメモホロの世界の全てを書き換えようとしている、闇属性の人物。それは、今までのキャラクターとは全く異なる、存在だ。 彼はこの世界を操っているギルバートを阻止する力を持っている。プレイヤーの俺なんて眼中にない。メモホロの全ての権限を、ルールを、仕組みを、全てを業火の中へと叩きつけようと企んでいる。 この世界に受け入れられなかった存在。彼はキャラクターであり、そうではない。その正体を知っているのは、彼自身だけだ。 彼との出会いが、俺の運命を揺るがしていくなんて、想像もしない。そんな余韻を感じさせる雰囲気を一切出していないから、安心していたのかもしれない。「ハウエル、君は全てのキャラに認められすぎたんや。知ってるか? メモホロの一番の重要キャラクターの事を。どうせ何も知らずに、ここに来た。そうやろ?」 彼は全てを理解していると言わんばかりに、突き詰めようとしてくる。「君は何者なんだ……カリア」 どんなシナリオがあったとしても、その影響を受ける事がない。カリアは自分の存在がこの世界にとって、どんなに異質なのかを示してくる。 プレイヤーとして、メモホロを攻略する事を軸に動いている俺と、その反対を考えているカリアでは、意見が合致する訳がない。 両極端な存在が、同じ空間に存在している事が変だった。「オイラの話を聞いて考えを変えるかと考えたんやけど、無理みたいやな。ハウエルとは仲良くしたかったんやけど、残念や」 対立の道しか残されていない俺達を周囲は、無言で佇んでいる。攻略対象キャラクター達は、この会話自体をなかった事にしようと、記憶を書き換えていった。 冒険の先にカリアと俺の審判が待っているとは、今の俺は知るよしもなかった。 ブィィィンと機械音が鼓膜を撫でる
五十一話 洗浄と言う名のキス 「これは金平糖。オイラの術を混ぜて作った毒消しなんだ。これを二人の口にも入れてあげて。その後の対処はオイラに任せてくれれば、大丈夫だからさ」「……分かった」 俺の側に居たい気持ちを抑えて、二人の元へと足を向けていく。それを確認すると、カリアは金平糖が体に馴染んでいくのを観察している。即効性のあるものではない。時間をかけて徐々に回復していく。そして最大値を示してたストレス度を消していった。「二人にも与えたぞ。後は……」 指示を待っているレイングは言葉を飲み込んだ。信用している訳ではないが、この状況をなんとか出来るのはカリアだけと、判断したようだ。 二人を床に寝かせると、薄黒かった顔色の血色が元に戻っていく。ゆっくりと確実に。 チラリとカリアを見ると、俺の顎を抑えると、自分の口に金平糖を放り込み、唇を重ねていく。 その姿を見て、あっと小さな声を漏らし、止めようと宙に舞っているレイングの右手が行き場を失っていく。 チュクチュクと唾液の音を響かせながら、口内の味を確認していく。華毒が残っている場合は少し苦味があるらしい。 そうと分かっていても、止める事が出来ない状況に感情がついていかない。その唇を味わえるのは自分なのに、とレイングは思っていた。「ぷは……これで洗浄出来たね」 ペロリと自分の唇を舐めると、光悦な表情を見せてくる。その姿を見ていると、カリアの存在が脅威に感じてしまうレイングがいた。「ハウエルを見ていてくれない? オイラは二人の洗浄を始めるから」「……ああ」 なんて受け答えをしたらいいのか分からないレイングは、ただただ受け止める事しか出来ない。眠っている俺の側に来ると、カリアの涎が唇にへばりついているのが見える。 それだけで嫉妬の炎を燃やしてしまう。決して表に出さない黒い感情を押し込んでいくと、ため息を吐いた。 キスの事を洗浄と言っていた事に、我に返ると、パッとラウジャとロロンの方へ視線を注いでいく。
五十話 華毒 突破する事が出来ないレイングは、自分の力に限界を感じていた。何かが自分を邪魔しているように、空間全てが彼を拒絶している。その現実に飲み込まれそうになっていく。「苦戦してるね〜。オイラが助けてあげようか?」 シュタッと天井から降りてくる一人の少年が現れた。見る感じ、18くらいだろうか。頭には見た事のない猫耳を生やしている。真っ黒の装束はまるで、忍びのように見える。気配を完璧に消していた少年は、楽しそうに微笑むと、キランと光るクナイを取り出した。「お前は何者だ?」「オイラの事知りたいの? それはいいけど。その前にこの結界を壊さないといけないんでない?」「……」 正体が分からないままで、力を貸してもらうのは危ないだろう。名前も名乗らず、ただ単に協力してくれている子の状況に疑問しか浮かんでこない。「そこまで警戒せんといてよ。鈍いオイラでも傷ついちゃう」 くるんとターンをすると、恥ずかしい格好を見せつけてくる。エロい瞳を見せつけながら、くねくね動く体を見て、引いてしまうレイングがいた。「今引いたよね、酷いなぁ」「……変態にしか見えないからな」「冷たすぎじゃない? だからハウエルにも愛想尽かされるんだよ〜」 俺の名前が出てくると、レイングの彼に対する目つきが変化していく。自分達の情報は何一つ漏らしていないのに、どうして名前を知っているのか、警戒し始めていた。「オイラは君達の旅が円滑に進むように依頼をされた忍者だよ。メリエット様から助けるように言われたんだ。これ書状」 胸元に隠していた書状を取り出し、見せてくる。レイングは確認の為に、内容を確認するが、この書状に綴られている筆跡はメリエットのものだ。そして国に証明されているハンコが押されている。メリエットの筆跡を真似る事は出来るかもしれないが、国が関わっているのなら、このハンコは偽造出来ない。押されたハンコには魔力が付与されているからだ。偽物ならこのようなテクニックは施されてはいないだろう。「……本物だな」「当たり前〜。
四十九話 SMへの入り口? ビリビリビリと電流が強くなっていけば行くほど、いい声で鳴くロロンがいる。視界は定まっていなく、口からは涎を垂れ流していた。だらしない表情にゾクリとする俺は、新しい階段を登り始めていく。 楽しむはずのゲームに翻弄されている自分を解放するかのように、隠された性癖を漏らしていくと、鳴き声をあげながら答えてくれる。 妖精の姿だったロロンは、気が抜けたのか擬人化していくと、小さくなった服が張り裂け、生まれたばかりの状態で俺に見せつけてくる。「へぇ〜。こういうのが好きなんだ。ロロンって変態だね」「うう、やぁ」 嫌と言えば言うたび、それは肯定へと受け取られていく。その事に気づけないロロンは、されるがままの状態に陥っていった。 二人のやりとりを見ているラウジャは、初めて見る俺の表情に震えながらも、唾を飲み込みながら羨ましそうに見ている。 その視線に気づいた俺は、ラウジャへ見せつけるように、ロロンの体をなぞり始めた。電流と手の感触で感度が最高潮に達しているロロンは涙を浮かべながら、ラウジャへと手を伸ばそうとしている。「逃げれる訳ねぇよな? 言っても分からない悪い子には躾をしないと」 俺はポケットからあるものを出した。それはウィンウィンと虫みたいに動きながら、くねくねしている。丁度男性の秘宝そのものの大きさだ。そこに涎をべったりつけると、ロロンの小さく可愛い入り口にぐにょと無理矢理入れていく。「うぐぐっ」 メリメリと肉が擦れていく音が聞こえてくる。余程痛いのか、声を我慢していても漏れてしまっている。苦しそうな表情で快楽と痛みに耐える姿は、まるで芸術品そのものだ。 奥まで入れると、痛みが快楽へと上書きされ、今までに感じたことのない感覚に支配されていく。自分の内部をかき混ぜられ、壊そうとしてくる侵入者の思うがままにされていた。「ハウ……も、だめ」 まだ喋る気力はあるようだ。そんなものは必要ない。ただいつまでのその快楽に流れて、精神さえ崩壊して欲しいと思ってしまう自分がいた。
四十八話 反論は拒否します 二人は自分の起こした事を後悔するように震えている。見るからにキレている俺に対して恐怖を抱いているようだった。レイングに任せれば血祭りになる可能性があった。だからこそ、ここは俺が悪役に徹する必要がある。 部屋は一部屋しか取れていない。レイングには席を外してもらう事にした。何の疑問も持たずに、彼は一人食事に出掛けていく。 レイングの気配が消えた事を確認すると、手筈通りに計画を進めていく。ラウジャにロロンを拘束するように命令すると、簡単に言う事を聞いてくれた。 今までロロンに対しての鬱憤が溜まっている俺は魔法で縛られたロロンに市場で買ったタランチュラーの糸を体に巻き付けていく。魔法で拘束でもしないと簡単には捉えるが出来ないと分かっているから、念の為にラウジャを使う事にした。 メモリアルホロウのシステムに通じているロロンがいつ自由になるかは不透明だ。言葉でこの世界を彩る事が出来ると言うのなら、言葉の力を糸に込めることで、強化出来るはずだと考えたのだ。「ハウくん、こわ〜い」「少し……黙ろうか?」 こんな状況になっても、なお煽ってくるロロンの神経を疑ってしまう。あんな周囲に対して迷惑をかけておいて、何事もなかったように振る舞うなんてあり得ない。 ロロンがメモリアルホロウにとって重要な人物だとしてもやりすぎだ。「……はい」 やっと自分が置かれている状況を理解し始めたようだ。あのまま素直に謝ればいいものを、彼らの口から出るのは言い訳ばかり。元からそういうのが大嫌いな俺は、いつも以上にピリつき始めた。 市場で購入した赤い魔石「ガリア」をロロンをくくりつけている糸の先端と繋ぐと、微量だが、電流が流れ始める。自分の魔力で調整が出来るようになっている。 どうやら俺の場合は通常のプレイヤーよりも魔力量が多いらしい。掘り出し物があると押し付けられた商品だが、お仕置きに使うにはもってこいだ。 思考で魔力を調整しながら、ロロンの顔色を確認した。いつもなら生意気な事を言ってばかりの彼が、何故だがモ